2007年11月30日金曜日

(墓78)ペルーの呪術師を取材/呪いで死にかけた!



取材・文・写真/太田宏人



 ペルーには、クランデーロという土俗的な呪術系の治療師がいる。
 胃の痛みや肩こりの治療はもちろん、失せ物探し、悪霊払い、依頼すれば呪殺までやってくれるそうだ。クランデーロというのは、(ペルーの国語の)スペイン語辞書には「もぐりの医者」などと出ているが、言葉の原意は「治療する者」。
 シャーマン的な能力を駆使して治療を行なうという彼らは、ペルーでは市民権を得ている。
 私は数年、ペルーに住んでいたのだが、長女の夜泣きがひどいときに、妻(日系人)がクランデーロのところに長女を連れて行った。すると、「邪眼に見られたからだ」と診断したという。そして邪眼よけのミサンガを渡し、生卵に邪眼の霊障を乗り移らせる方法を教えてくれた。
 それは、生卵を赤ちゃんの顔の上で十字に動かすというものだった。
 生卵は遠慮したが、ミサンガはつけさせた。ちなみに、行きつけの小児科の先生は、「泣いたらお風呂よ」と言っていた。
 ミサンガの効果かお風呂の効果か分からないが、多少は夜泣きは改善したのを覚えている。
 それはさておき、南米にはアフリカ系の土俗宗教が大なり小なり入りこみ、スペイン征服以前の宗教と混淆しているというわけだ。
 ペルーでもナンバー1、2というクランデーロが仮名・O氏だ。一見、ただのおっさんだが、彼は警察の捜査にも協力し、フジモリ元大統領側近の家の「かくし部屋」を透視したことでも知られる。警察官からの信頼は厚く、「強盗との銃撃戦で弾が外れるように」というお祓いの申し込みが殺到しているとか。
 今回、O氏を取材した。日本のメディアは初めてだ。彼の家は、リマ市郊外にあった。
 体験取材である。そこで、ペルーに住む日本人の女性3人と一緒に行った。彼女たちはペルー人と結婚している人たち。むろん、O氏には彼女たちの事情を一切教えていないのだが、タロット占いで、彼女たちと、それぞれのダンナやダンナの家族との関係、日本にいる家族のことまで言い当ててしまった。ただし、人名を的中できるのはペルー国籍者に限るようだった。
 霊視はほとんどあたっていた。私も、過去に関係を持った女性や裏切った女性の風貌、人種・国籍まで全部当てられて、冷や汗が出た。そのときに聞いた予言も、だいたい外れていなかった。
 この霊障相談を撮影した。しかし多くの写真が真黒く感光していた。他の取材ではこんなことは、後にも先にもない。


悪霊落としとハト除霊

 次は悪霊落としである。これは私が体験した。担当はO氏の息子とお仲間2名。真っ暗で薬草臭くて湿気がむんむんする部屋に通され、目隠しをされる。そして、いきなり流される大音量の音楽。3人の男たちが金属の棒で、やはり鉄か何かを叩きつけながら、私の周囲を狂ったように踊り始める。そして「出ていけ、この糞野郎!」とかなんとか叫びながら、私の頭のすぐ近くで鉄を叩きく。そして、口に含んだ薬草のエキス(?)をブーッと、部屋中に噴出するのだ。要するに、私の体内にいる「なにか」を体外へ追い出すということらしい。
 悲しいかな、文明に毒された身。ただの苦痛な1時間でしかなかった。が、精神が健康なペルー人だと、トランス状態になるのかもしれない。
 そして次に、ハトを使った霊障除去が始まった。これも私が体験。なにかの呪文を唱えた息子氏はいきなり、生きた野鳩の胸を裂き、その裂け目を私の頭にこすり付けたのだ。
 べちゃ。
 内臓物が、凄まじく臭う。それより、あふれる血もしくは内臓液、またはその両方が、顔面や首筋に垂れてくるのだが、それが温かいのだ。変な意味で「いのち」を実感する。
次第にシャツやズボンにも垂れてくる。何より、まだ動いている心臓の鼓動が頭皮に響くのが、なんともいえない感覚だ。
「おまえの惚れっぽさは、憑依している霊が原因だ。こうでもしなければ治らない。悪い霊をハトの体に沁みこませるのだ」と説明しながら、ぐいぐいとハトの体の開口部を私の頭部になすりつける息子氏。惚れっぽさは霊の仕業か? などと疑念も浮かんだが、切り裂かれた2羽のハトの犠牲に報いるためにも、ここは素直に治療を受けた。
 2羽のハラワタをたっぷり頭皮になすりつけて、治療は完了。
「24時間、飯は食うな。酒も女もタバコも駄目だ。ハトの死体はおまえが川に向かって、後ろ手で投げ捨てろ。さもなくば、呪われるぞ」と、息子氏に命じられた。
 ところが、宿舎に戻る途中、悲しいかな川がなかった。仕方なく海に捨てたのだが…。
 数日後、リマの中心地で突然、私の乗っていたタクシーを挟んで警官と強盗団の銃撃が始まった。窓ガラスはすべて吹き飛び、車体は穴ぼこだらけ。奇跡的にケガはなかったが、これが「呪い」なのだろうか。惚れっぽさも、変化なし。やはり、ハトの死骸を海に捨てたからか。
 かわいそうなのは、巻き添えを食らったタクシーの運ちゃんかもしれない。

<写真>面倒くさそうな表情の呪術師(息子のほう)
ミリオン出版「ワールドストリートニュース」(2007)掲載