2007年9月4日火曜日

(墓56)無駄で無意味な?日本の動物実験

これが《無意味な》日本の動物実験
ムダな実験のかずかず
実験動物の管理もずさん


太田宏人

●公権力による完璧なダークサイド

むき出しにされた脳に電極を埋め込み、電気を流し「神経の働きを調べる実験」。赤ちゃんの両目を縫い合わせ代理母(ぬいぐるみ)を与え「愛情を調べる実験」。1平方メートルの密閉器に閉じ込めて霧状の農薬を充満させ、どのくらいの量&時間で死ぬのかを調べたり、体を器械で固定し、目が潰れるまで薬品を垂らす「毒性実験」……。
こんな実験が「ヒト」で行われていたら、まるでナチス・ドイツだが【注1】、日本でもこういった動物実験が日夜ひそかに行われているのを、知っているだろうか?
動物実験の「現場」に一般人が立ち入ることはない。実験の事態が明るみに出るのは、多くの場合、内部告発によるものだ。
そもそも動物実験というものは、医薬品や化粧品、農薬、洗剤などを開発する際に、役所によって提出が義務付けられているものだ。製品化の前には何百何千という動物を使った(=殺した)実験が行われている。しかも、多くの実験/研究者が公金の恩恵を受けている。
動物実験の実態を解明するためのチェック機関なり、システムなりの法整備を、国は事実上、拒否している。ちなみに、製薬会社や化粧品会社はマスコミのスポンサーだから、マスコミが追及することは決してない。
コンドームに塗られた殺精子剤の開発のためにだって、毒性実験は行われている。その実験は、マウスの毛を剃ってむき出しにした皮膚に、殺精子剤を塗り続ける。皮膚がただれるまで続ける、というものだ。殺精子剤は界面活性剤。別名は「洗剤」【注2】。洗剤を皮膚に塗り続ければ、それが有害だってことは誰だって理解できる。要するに、分かりきったことを追認して、「データを提出する」ためだけに、実験が行われているのだ。
今回は、コンドームの毒性を書く記事ではないので、これでやめるが僕らの生活は、国の制度によって「動物実験で支えられている」構造になっているわけだ。


●無駄な研究のために「消費」される動物ペットとして飼われていた犬や猫はかつて、全国で年間100万頭以上も、実験施設に払い下げられていた。それが現在では1000頭を下回った(平成15年は犬=623頭/猫=111頭)【注3】。動物保護団体が、根気良く反対運動をしてきた成果だ。
ただし、動物実験の廃止活動に20年近く取り組んできた野上ふさ子さん(ALIVE)によると、「調べてみると、近年はペット業界からも実験施設に動物が売られている」という。
少し詳しく言うと、遺伝的に系統がはっきりしない飼い犬・猫での実験では、精確なデータが取れない。知人の研究者も「ペットとして飼われていた動物は、どういった感染症や寄生虫、遺伝的な病気を持っているか分からないので、実験の用途は限定される。人に馴れているから、『実験』しやすいのだろうが…」と証言する。医学部や獣医学部での、解剖や薬理(薬物によって起こる生理的な変化)の初歩など、ごく簡単な実験でしか使われない。国に提出したり、(業績を積むことを目的に)学者が学会で発表するような研究のための実験には、ビーグル犬などの実験用に「生産」された動物が使われる。ビーグル犬の場合、一頭15万円位するそうだ。ちなみに、払い下げの犬猫は無料~数千円。
ビーグル犬は高価なので、徹底的に「使う」という。ありとあらゆる実験と解剖を行って、最後には原形はとどめない。冗談ではなく、最後は市販のビニールのゴミ袋に詰められたりしている。では、飼い犬・猫の場合は? 施設によっては「どうせ払い下げの犬猫だから」という理由で、麻酔なしで切り刻むこともあるとか。
医学部や獣医学の学生は、こういうことを繰り返して医者や獣医師になるわけだ。
最近では、バイオテクノロジーの研究が「流行」で、工学系の大学や企業が遺伝子改変マウスを使って、盛んに実験を行う。生み出される遺伝子改変動物の数は、学会の“自己申告”によれば年間200万匹(ほとんどがマウス)。
日本ではいったい、年間何頭の動物が実験で「消費」されているのだろうか? 野上さんは「正確な数字は分からない。『先進国』のなかで、動物実験の実態が把握されていないのは、日本だけです」と前置きしながらも、「年間2000万頭くらいでは?」という【注4】。「日本では動物実験の実態が公表されないので、現在おこなわれている動物実験の是非や動物の数、代替法を検討したりするための議論のベースさえないわけです。役所の予算でも、市民による第三者評価が加えられるのに、同じ税金を使いながら、動物実験は密室。『科学の発展のために』という大義名分の下、文部科学省の予算はどんどん膨れ上がっているのが実情」(同)。
病気を解明する、という理由で、モデル動物を作り出す研究も行われている。たとえば、人に感染するものの、他の動物には本来は感染しないウイルスのDNAを操作し、感染可能なウイルスを人為的に作ってしまう。本末転倒だ。野上さんは「実験動物で得られたデータは、ヒトには適合しない」と断言する。
密閉された実験施設のなかでは、その逆(動物→ヒトへの感染)の研究が行われていても、誰もわからないのだ【注5】。

●ついに、いのちがけの内部告発
実験施設の維持管理は、学者ではなく技術者が行う。株式会社アニマルサポートの岩崎啓吾さんは、東京理科大の実験施設のずさんな実態を告発した。その結果、仕事は減って社員は半減。業界から冷遇されている。正義の内部告発というのは自殺行為と同義語だ。
理科大の実験施設の実態は「驚愕」そのもの。動物はマウスを使っていたが、普通は数匹しか入れてはいけないゲージに、雄雌を入れっ放しにするので、勝手に繁殖し、それをさらに放置するため、最終的には何十匹にもなってスシヅメ状態で共食い。こうなると、岩崎さんらが、尻尾を引っ張って頚椎を脱臼させて殺したり、死に至る量の麻酔を投与したり、場合によっては首を鋏で切るなどの「処分」をする。もちろん、こうならないようにするのは、研究者の義務だが、彼らはそんなことには関心がない。研究者が少し気をつけていれば、無駄な間引きを防げるはずだ。
これが、普通の現場だ。生命倫理的にもおかしいが、もっと変なのは、「実験施設内で勝手に繁殖する」ということ。こうなると、「親」と「子」を特定できない。遺伝系統は不明になってしまうのだ。そして、そんなマウスが、さも遺伝系統が分かっているかのようなIDをつけられて論文に書かれている実態に、岩崎さんら同社スタッフは憤った。
さらに、「可哀想だから」(可愛いから?)という理由で、若い研究者や学生が、遺伝子改変マウスを自宅に持ち帰ったりしていたそうだ。実験施設の外を徘徊するマウスを、近所の住民が目撃されたこともある。バイオハザードという言葉を、この子たちは理解していないのだろう。
「これで『科学』が成立するわけがない。なんのための実験なのか?」と岩崎さん。税金を、外部のチェックも受けずに湯水の如く使えるような環境にいると、感覚が麻痺して、小学生でも分かるような善悪の判断さえできなくなるのだろう。幼稚だ。日本の科学のベースにも「幼児性」がはびこっている。
* * *
科学の美名の下で、動物が「消費」される。だが、科学抜きでもヒトはヒトの生命を軽く扱う。たとえば戦後60年で、累計7100万件(実際にはこの数倍)もの人口中絶が日本で行われたことは、一つの証拠だろう。

【注1】日本の動物実験は731部隊の流れを汲む。そしてこれが、戦後の医薬界の根幹だ。
【注2】殺精子剤の主な成分はアルキルフェノールで内分泌かく乱物質(環境ホルモン)。他の用途は、消毒薬、酸化防止剤、農薬、香料、界面活性剤(洗剤)など。
【注3】保健所に持ち込まれて殺処分される犬や猫の数は、年間43万頭ほど(平成15年)。
【注4】マウスの実験施設(とくに工学系の大学施設)では、「使った動物」「処分した動物」の数を把握していないことが普通。
【注5】HIVは人為的に作られた可能性が指摘されている。


(追記)
[研究]という名の濡れ手に粟! これが「科学者」の実態だ
この原稿を印刷する寸前の10月4日、莫迦なニュースが報じられた。慶応大医学部のI教授が、実際には使っていない実験用マウスなどを購入したように偽装し、文科省と厚労省の科学研究費補助金を、判明しているだけで約4500万円も不正受給していたのだ。一人の教授による不正受給額では過去最悪。手口は架空伝票を切るなど確信犯だった。この人、免疫学の第一人者なんだそうだ。

●『漫画実話ナックルズ』(ミリオン出版)掲載
2005年

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