2007年9月4日火曜日

(墓38)女性刑務所で美人コンテスト!? ペルー

たぶん、この光景は「ラテンならではの明るさ」などと形容されるのかもしれない。

9月30日、南米ペルーの首都リマ市で「春の女王」を選ぶミスコンが開かれた(リマは現在、夏)。会場が一風変わっていることと、候補者の肌の露出が控えめな点をのぞけば、まあ、普通のミスコンだろう。

その会場とは「サンタ・モニカ女性刑務所」。候補者たちは、各房から選りすぐられた15人の女性受刑者だ。彼女たちの衣裳は、下はジーンズ。上は水着か下着みたいな服。その上から布裂れを胸に巻いて、おっぱいの形がはっきり見えないように工夫されていた。けれども、ペルーでは、女性のセックス・アピールは、腰まわりのムッチリさ(らしい)。腰で、勝負だ。

受刑者といっても、なかには未決囚もいるのだが、こういうイベントがあって、そして写真つきで報道が許可されるほどオープンで、さらに優勝者の名前もスリーサイズも公表されるところが、なんというか「…スゴイ」。もし同じイベントが日本で行われたら? 「受刑者にも人権があるのよ!」なんてロジックで、フェミニストとかの闘士が猛烈に抗議しそうだ。しかしこのミスコン、ペルーではきっちり「明るい」ニュースになっていた。

ラテンアメリカの多くの国のニュースには「警察記事」という人気(?)ジャンルがある。逮捕された容疑者は、まだ起訴もされる前からフルネームと顔写真はもちろん、ときに家族のことまで報道される(というか、ほとんどさらし者状態になる)のだ。そういう「素地」があるし、意外にも、あまり女性が大事にされない国柄であったりする(女性の交通警官が、交通ルール無視のドライバーにひき殺される事件が絶えない)。

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全受刑者810人の頂点“春の女王2003”に見事輝いたのは、ペルー中部ワヌコ地方出身のネイダ=マガリー・アコスタさん(21)。身長1m70cm、サイズは上から90、58、90の「ナイスバデー」だ。

当日の模様を、ペルーの日刊紙『ラ・レプブリカ』が熱く伝える。
「最終選考の段階で、会場はビリビリするような興奮に包まれた。そして、彼女が選ばれた。審査にはまったく支障がなかった。なぜなら彼女は、他の候補者たちも含めた満場一致の大きな拍手によって、女王の座を認められたからだ」。

ミスコンには、「女王」のほか、“がんばったで賞”みたいなマイナーなプレミアも用意されていたが、ネイダさんは「ミス友情」もゲット。二冠に輝いた。

見学に来ていた彼女の母親は、号泣した。彼女も大粒の涙をぽろぽろこぼして、「いちどきに、こんなに幸せを感じたことはないわ!!」と泣いていた。

このコンテスト、じつはインターナショナル。今回の候補者の国籍は、ペルー、ブラジル、スペイン、トルコ、スリナム、アルゼンチンなどで、第二位にはスペイン人、第三位にはアルゼンチン人の受刑者が選ばれた。

サンタ・モニカ女性刑務所には、いろんな国の受刑者がいる。去年はヴェネズエラ人が“春の女王”だった。じつに7年間、ペルー人女性は女王に選ばれなかったらしい。ちなみに日本人女性は現在のところ、服役していないという。

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彼女たちの多くが「麻薬の運び屋」として、空港でパクられている。

運び屋の報酬は、日本円にすると60万円~120万円という。これは、町のパン屋で、掌サイズの小さなフランスパンが17万5000個~35万個買える金額だ。刑は重く、現行犯で捕まれば懲役が10年になることもある。

今回“春の女王”に選ばれたネイダさん(21)も運び屋として逮捕された。去年の11月にブラジルへ旅行するとき、空港の検問で、彼女の旅行かばんから2kgの純正コカインが見つかったのだ。「私のものじゃない!! 『ある人』に、『ブラジルの親類へ持っていってくれ』と頼まれただけ」と、主体的な関与を否定している。だが、運び屋行為が処罰の対象なのだ。彼女ももしかしたら、これから10年近くのムショ暮らし。ミスコン優勝の涙は、あきらめの涙なのかもしれない。そういう涙に、一般人だって涙する。ラテンはこういうとき、思いっきり湿っぽい。

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ペルー国立刑務局が主催する華やかなイベントの裏側には、悲惨な状況もあるという。この刑務所内部でも、「病気になっても充分な治療が受けられない」とか「刑務所内でのドラッグ汚染」といった問題が渦巻くとか。

“春の女王”になっても減刑はない。明日からは刑務所の現実に呑み込まれる、たんなるひとりの女服役囚にすぎない。
やっぱりちょっと、残酷なイベントだ。

取材協力:大植満(リマ)、川又千加子(リマ)

『漫画実話ナックルズ』(ミリオン出版)VOL12(1月売号掲載)


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