2007年9月3日月曜日

(墓29)在日「デカセギ」外国人の葬儀事情

在日「デカセギ」外国人の葬儀事情
そこから垣間見える日本の国柄、「日本人」気質
太田宏人


日本人の葬儀(セレモニー)そのものが変わってきている。日本ではふつう、葬儀と火葬、埋葬はワン・セットで考えられるわけで、火葬後の埋葬も、流行にあわせて「散骨」やら「宇宙葬」なども宣伝されている。とくに、海や山などへの「自然界」への散骨希望はあとを絶たない。

そんな日本人の葬儀への要求の変化には、それぞれに事情と理由があるが、日本人の身近な隣人=在日外国人=も、もちろん、日本で亡くなっている。たとえば、在日ペルー人約5万人のうち、死産をあわせると毎年、約70人が日本で死んでいる。

彼らは、日本での葬儀を、どのように行っているのだろうか?

●タイ人
東京都荒川区、JR三河島駅から数分で到着する「タイ国タンマガーイ寺院」は一見、普通の雑居ビルだが、在日タイ人の精神的支柱となっている宗教施設だ。ここには、タイ仏教界から派遣された8人のお坊さんが詰めている。日本には、タンマガーイ寺院のほか、大阪と成田にもタイ寺院がある。全国では二〇人くらいのタイ人僧侶がいる。同寺のプランポンテープ師によると、タンマガーイ寺院は、
「日本におけるタイ寺院ではもっとも古い」という。七年前に東京都北区赤羽に建立され、三年前、現在地に移転した。
「こちらにいるタイ人は日本語が分からず、日本の寺院に(冠婚葬祭を)頼めない。そこで、私たちが必要とされました」(同師)。一方、在日タイ人の本音によると、「日本のお寺では受け入れてもらえないからね」とのこと。
「日本でタイ人の誰かが亡くなると、まず私たちタイの僧侶が呼ばれ、読経をします。その後、日本の火葬場を利用して火葬を行い、遺骨(灰)を本国に持ち帰って、川に流します」

タイの人たちは、日本にお墓を作らないのだろうか?
「日本人配偶者のいる人は分かりませんが、ほとんどの方が持っていない。必要ないから」と同師。
「タイでも火葬が普通。死亡直後ではなく、一週間後や一か月後など、時間が過ぎてから行います」

タイは上座部仏教が盛んな国だ。取材中も、何人ものタイ人がタンマガーイ寺院を訪れ、タンブン(徳を積むこと=布施)を行っていた。

●イスラム
ムスリム(イスラム教徒)は火葬できない。火葬は、「地獄における火あぶり」と考えられているからだ。そこで、土葬が求められる。だが、土葬可能の墓地は、現在の日本にはほとんどない。

そして、日本では墓地以外の場所への埋葬は、原則的に禁止されている。

宗教法人日本ムスリム協会によると、「私たちは山梨県内に土葬用の墓地を購入しました」。ただし、これは日本人のイスラム教徒向けのもので、「外国の方は、できるだけ本国へ遺体を運ぶように勧めています」という。

イスラムの葬儀を一手に引き受けるYという業者がいる。この業者が、遺体を本国へ運ぶエキスパートだ。外国人の遺体を運び出すためには、その人の母国の在日大使館(または領事館など)に申請し、許可を受けなければならない。しかしこの業者であれば、煩雑な在日大使館への申請や、飛行機への搭乗手続なども、「顔パス」で可能らしい。顔見知りなのだ。

遺体を運ぶにあたっては、エンバーミング(防腐処理)を行なう必要があるが、それができる医師は、日本では、ほとんどいない。この業者には「詳しくは言えないが特別な知り合い」がいて、エンバーミングも、問題なく請け負っている。遺体を本国に運ぶには、最低でも数十万円かかるそうだ。

「最盛期には月に五件のイスラム葬儀を行った。最近は少ない。不況で彼らがいなくなった。ひと昔前はバングラデシュの人が多かったね。お墓? 日本人の奥さんがいると買うかもしれない」(Yさん)。

●フィリピン人ローマ・カトリックは火葬を禁止しているわけではないが、フィリピンのカトリック信者は、火葬を嫌うそうだ。やはりイスラムの場合と同様、エンバーミングして遺体を送りたいというのが本音。ところが、お金がない人は送れない。そこで、火葬してから遺骨(灰)を家に保管し、何かの折に本国に運ぶ人もいるそうだ。宗教行事に関しては、日本のカトリック教会に多くの外国人神父がいるので、安心だ。

●朝鮮人
北(北朝鮮)は儒教系、南(韓国)はカトリック系が多いという。儒教では、たとえば東京・小平市の国平寺に在日朝鮮人僧侶がおり、このお寺が関東圏の同胞の面倒を見る。

葬儀には、日本の葬儀業者が入ることが多い。読経の部分が朝鮮語になる。昔に比べ、簡略化されているそうだ。通常は、火葬にする。

一般(日本人向け)の霊園に墓地を買う人もいるが、朝鮮寺院の納骨堂などもよく利用されている。

●ブラジル人、ペルー人などラテンアメリカ人
日系、非日系を問わず、ポルトガル語(ブラジル)、スペイン語(ペルーなど)を話すカトリックの神父にミサを依頼するのが標準的だ。葬儀は、教会からの紹介で葬儀屋を紹介してもらうことも。最終的には遺骨を本国に持ち帰る。

また、パーフェクトリバティー教団(PL)などのように、南米での布教が盛んな教団が、南米メンバーが出稼ぎで日本に来ると、宗教的サポートを行うことも珍しくない。しかし、二重国籍や日本人配偶者がいる場合はのぞき、日本に墓地を買う人は少ない。日本は移民を認めないからだ。あくまでも一時的な出稼ぎ。合法的なデカセギ(日系、日系配偶者、日本人配偶者または子、研修)でも、原則としては、いまのところ四世までしか住めない。

南米では、日本の仏教教団も布教をしてきた。当然、現地において獲得した信者たちもデカセギとなっているが、日本の寺院は、彼らをほとんど受け入れていない。
「檀家以外の人たちの加入は、旧来の檀家さんたちが認めないのです」(ある日本人僧侶)。

●中国人
中国語メールマガジンの編集長・姚遠さんは「一般的なことですが」と前置きし、
「基本的には、『郷に入っては郷に従え』。日本式の法事ですね。葬儀も日本の僧侶に頼むことが多いですが、不法滞在者などはキリスト教の教会に頼むこともあります。費用が安いから」という。

日本の永住者や定住者の場合は、日本で墓を買うことはめずらしくないことだそうで、中国人専用の業者もいるという(日本が移民を認めていようといなくとも、VISAがあってもなくても、まさに「根を張る」。このあたりの生命力の強さは、他の国の“デカセギ”には見られない。華人が全世界に根を張るのも納得)。

●「ペルー系日本人」は出現するか?
外国における日本人移民・移住者の子孫たちを、「日系●●人」と呼ぶ。彼らは、外国で亡くなると、その土地に墓を建てた。もちろん、爪や髪、墓土を故郷へ送り、できる限り日本でも墓を立てたのであるが、多くの人が移住先の土になっていった。

かたや、日本にいるデカセギの外国人。中国人などをのぞくと、彼らの大多数は、決して日本の土になろうとは思わない。彼らが、自分たちの習慣を守り、できるだけ遺体を本国へ運ぼうとするのは、日本が、行政や法律のレベルで移民を認めていないということも、背景にあると思う。そして、日本人の社会や伝統教団が、外国人を「市民」扱いしないためでもあろう。現在のところ、外国人が「市民になる」には、帰化しか方法がないのだ。永住者でも、住民票をもてないのが、この国。デカセギの子ども達が、将来も住めるかどうか、不確実なのだから、この国に「骨を埋める」には、整合性がないのだろう。

彼らの滞在の目的が「金を稼ぐためだけ」だから、「日本に骨を埋めようと思わなくて当然」という指摘もあるだろうが、それは間違っている。多くの調査によって明らかにされているように、デカセギ外国人の多くが「いい職があれば、永続的に日本に住みたい」と考えている。在日ペルーの場合でも、定住(停住)者が圧倒的多数になっている。いまや、デカセギを親に持つ子どもたち(デカセギ二世)が、日本の大学へ進むようになっている。デカセギ三世も生まれている。

しかし、日本は、彼らをペルー系の日本人とはみなさないのだ。

一方、ペルーなどの移民受入先の多くの国で、紆余曲折はあったものの、日系移民二世に国籍を与え、市民とした。ペルーでは、二世から大統領も生まれた。では、日本にいるデカセギ二世から、首相が生まれる可能性はあるだろうか?

二世に国籍が与えられた(その国の人間になれた)からこそ、ペルーのリマ州北部に昭和初期に作られた「サン・ニコラス日本人墓地」の慰霊塔は、「当国に生をうけ同じ血の流れる後続の諸氏よ、願くはこの霊地を永久に守られん事を」と訴えることができた。

しかし現在の日本では、デカセギの子どもたちの未来が不確定すぎて、「後続の諸氏」に自分達の墓のことを頼むことはできないのだ。

【参考までに】日本消費者協会が行ったアンケート調査によると、(日本人の)葬儀費用の一式の全国平均は、二三六万六〇〇〇万円。その内訳は、葬儀一式費用が一五〇万四〇〇〇円、寺院にかかる費用が四八万六〇〇〇円、飲食接待費用が三八万六〇〇〇円。


バウハウス刊『GOKUH』2004年2月号に書いた「死の値段」の一部を抜粋し、
ペルーの邦字紙『ペルー新報』用に加筆したもの。


このページの先頭へ
記事の墓場HP
(メインページへ飛びます)